婚カチュ。


「ちょ」


後ずさろうとしたわたしの顔を松坂が覗きこむ。眉を歪めたどこか悲痛そうな表情に、わたしは声を呑みこんだ。


「先輩、け、結婚するんですか」
 

低い声が震えていた。なんとなく気詰まりで視線を逸らす。


「いや、結婚したいから、相手を探そうと思って」

「な、なんで相談所なんかに」

「だって出会いがないから」
 

松坂は絶句したように固まった。その隙に大きな手から逃れる。


「ほら、急がないと講習会遅れるよ」

 
広い背中を叩くと丸い目が悲しそうに揺れる。叱られたときのレオの表情にそっくりで、あやうく笑いそうになった。


「せ、せんぱい」

「なに」
 

笑いをこらえて答えると、松坂は思い直したように首を振った。


「……いえ。また、そのうち連絡します」
 

消え入りそうな声で言い、背中に哀愁を漂わせて、できる男はエレベーターに乗り込んでいった。

 











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