婚カチュ。
「おつかれさま」
声が聞こえ、振り返ると女性が立っていた。
「どう紫衣ちゃん、順調?」
「桜田さん!」
「あ、社長」
すらりとした長身にシンプルなベージュのパンツスーツを着こなし、品のいい茶色の髪を背中に流している彼女は、この結婚相談所の経営者だ。
どこからどう見ても30代前半の美しい女性にしか見えないのに、実年齢は47歳なのだという。おそるべき美魔女に、わたしは飛びついた。
「桜田さん、わたしもう耐えられません。アドバイザー、チェンジでお願いします」
「悪いけど、うちはそういうシステムないから。ほかのスタッフも手一杯だし」
切実なわたしの想いを笑顔で一蹴し、桜田さんは広瀬さんを横目で見やった。
「智也くん、あんまり紫衣ちゃんをいじめちゃダメよ」
「はあ」
広瀬さんが曖昧にうなずくと彼女はわたしを見下ろす。
「安心して紫衣ちゃん。智也くんは信頼できる子よ。彼に任せておけば大丈夫だから」
「ええ?」
不満の声が漏れてしまい、わたしは広瀬さんを振り返った。