いとしいこどもたちに祝福を【後編】
「もう終わり、ですか…」

元通りになった床上へ着地して、少し乱れた呼吸を整えながら香住に訊ねる。

「そなたの力量を見極めるには十分。これ以上は続けても時間と労力の無駄だ」

「っ…俺は、貴方を納得させることができましたか」

「我が一族八人を相手取り、瞬時に状況を判断し立ち回れるとは見事としか言い様があるまい。そなたは、やはり紛うことなき守護者の一人のようだ」

「その…守護者というのは?」

「そなたや香也のような力を持つ者のことだ。その呼称の通り、そなたらはあるものを護るためにその力を持って生まれた。そなたも既に、それが何なのか気が付いておるのだろう?」

陸は黙って首を縦に振った。

「所有(あらゆ)る力の根源、“愛”――その性質から“まな”とも呼ばれる能力の持ち主。愛の能力者は八精霊を操る術と無限の力を併せ持ち、たった一人で国一つを容易く、壊滅させることも癒すことも出来る」

春雷で実際に目の当たりにした、晴海の力。

強大と評される自身の霊力と香也の魔力の全力をもってしても、抑えるのがやっとだった。

恐らくあれも、まだ彼女の力の一端に過ぎないのだろう。

「しかし大き過ぎるが故に、その力を狙われることや制御し切れないことがある。そのときにその者を護り支える役目を持つのが、そなたら守護者だ」

自分と香也は、晴海を護るためにこの力を授かって生まれた――

「愛の能力者は、現し世が平穏であるうちは生まれない。平和な世に強力な力は必要ないということであろうな。我々獅道には、“世界の調和が乱れようとするときに現れる”と伝えられておる」

「世界の、調和…」

「薄暮が不穏な動きを見せ始めたのは二十余年前程から。現領主がその座に就いてから力を付け始め、立て続けに樹果と炎夏を支配下に納めた。前兆としてそなたの母の血筋にも大きな災いを齎(もたら)したろう」

「……はい…」
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