いとしいこどもたちに祝福を【後編】
そうだ――祖父母の命や母の故郷を奪ったのも、夕夏たちの両親が命を落とした侵略戦争を起こしたのも、架々見の画策による薄暮の行いのせい。

そして今回は月虹に能力者たちを集め、春雷を初めとする他国への侵略を目論んでいる。

「何が定めた決まりに基づくのか儂にも解らぬがな…薄暮の動向は世界の調和を乱す不穏分子と見做されたのだ。そしてそれを排するために、愛の能力者と守護者はこの世に生を受けた」

その言葉に胸がざわついた。

晴海の力は、架々見の企みを止めるためのもの…?

「…守護者がその役目を果たせねば、愛の能力者は架々見のような輩に寧ろ利用されてしまう。それ故に我々も霊奈との協力を厭わぬのだ」

「ですが、父は俺が生まれたときにも貴方に相談を持ち掛けたと言っていました。そのときに助力を頂けなかったのは、何故…」

「…そなた自身が使命を自覚するのを待っておったのだよ。しかし儂も架々見と霊奈の因縁について失念し、判断を誤ってしもうた。そなたの父には悪いことをしてしまったな…」

「…!いえ、今こうしてお話をして頂けているので、十分です」

やはり、予想以上に香住は一族間の問題を抜きに物事を捉えてくれている。

まさか此処へ来て、父に対する謝罪の言葉を耳にするとは思ってもみなかった。

「獅道と霊奈の両家に生まれると定まっている守護者と違い、愛の能力者の血筋は定まっておらぬ。探索は香也の出生を契機を始めていたが、発見は難航していた。そなたや香也はやはり守護者というべきか、護るべき対象を自力で見付けたようだがのう」

事情を知らない自分が晴海の力に気付くことが出来たのは、たまたま充が父に相談を持ち掛けてくれたからだ。

逆に守護者としての使命を自覚していた香也は、隠匿され続けていた晴海の能力にいつ気付いたのだろう。

「…もしかして香也は、加々見の動向や愛の能力者の居場所を探るために、自分から月虹へ…?」

「さて、のう。彼奴はこの一族を嫌っておった。己が務めを果たすための策か、自分を受け入れなかった一族への当て付けか。彼奴の真意は儂には推し量れん」

「…受け入れ、なかった?」

香住は少し戸惑うように口籠ったが、陸がじっとその眼を見つめると小さく息を吐きながらゆっくり首を振った。
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