いとしいこどもたちに祝福を【後編】
「――あの、もし」
来たとき同様使用人の男性に連れられ邸を出た直後に、背後から追い駆けてきた声に陸は足を止めた。
振り向いた先には、母と同じか、幾つか歳上と思しき女性が息を切らせて立っている。
「良かった、帰られてしまう前に間に合って…」
「?貴方は…」
初対面なのに何処か見覚えのある顔立ちに、何となく違和感を覚えた。
女性が目配せすると、傍らの使用人は会釈を返して数歩後ろへ引き下がった。
「私は紗也(さや)。あの子の、香也の母親です」
「!」
成程、違和感の正体はそれか。
「貴方にこんなことを訊いて、申し訳ないのですけれど…あの子は、元気にしておりますか?」
紗也の縋るような眼差しに、彼女の正体を少々訝しんでいた陸はびくりと身動ぎした。
その表情は、愛梨が陸を気遣うときと同じ――子を案じる母親の表情そのものだ。
「…俺の知る限り、羨ましい程に活力的ですよ。彼は四年前から、一度も貴方へ顔を見せずに?」
「…ええ。香也は自分の意思で冬霞を去ったのですもの、此処に戻って来る筈がないわ。それに“香也は使命を投げ出し冬霞を裏切った”と見なした一族の者たちが、あの子に決してこの地を踏ませないでしょう」
小さくかぶりを振ると、紗也は陸に懇願するように詰め寄った。
「でも、どうか同じ守護者である貴方には知って頂きたいのです。あの子は一族を憎んでいても、自分の使命だけは決して忘れていない筈だと」
「それは、何故…?」
来たとき同様使用人の男性に連れられ邸を出た直後に、背後から追い駆けてきた声に陸は足を止めた。
振り向いた先には、母と同じか、幾つか歳上と思しき女性が息を切らせて立っている。
「良かった、帰られてしまう前に間に合って…」
「?貴方は…」
初対面なのに何処か見覚えのある顔立ちに、何となく違和感を覚えた。
女性が目配せすると、傍らの使用人は会釈を返して数歩後ろへ引き下がった。
「私は紗也(さや)。あの子の、香也の母親です」
「!」
成程、違和感の正体はそれか。
「貴方にこんなことを訊いて、申し訳ないのですけれど…あの子は、元気にしておりますか?」
紗也の縋るような眼差しに、彼女の正体を少々訝しんでいた陸はびくりと身動ぎした。
その表情は、愛梨が陸を気遣うときと同じ――子を案じる母親の表情そのものだ。
「…俺の知る限り、羨ましい程に活力的ですよ。彼は四年前から、一度も貴方へ顔を見せずに?」
「…ええ。香也は自分の意思で冬霞を去ったのですもの、此処に戻って来る筈がないわ。それに“香也は使命を投げ出し冬霞を裏切った”と見なした一族の者たちが、あの子に決してこの地を踏ませないでしょう」
小さくかぶりを振ると、紗也は陸に懇願するように詰め寄った。
「でも、どうか同じ守護者である貴方には知って頂きたいのです。あの子は一族を憎んでいても、自分の使命だけは決して忘れていない筈だと」
「それは、何故…?」