いとしいこどもたちに祝福を【後編】
「そん、な……」

最早父の亡骸は疎(おろ)か、遺品すら目にすることは出来ないのか。

理不尽な仕打ちを行った彼らに元より期待など出来る筈はない――とはいえ、改めてそう考えると悲しかった。

「大方、あの架々見の指図だろ。あいつは元々、親父をやたら目の敵にしてる節があったしな。如月だけの判断だったら、あいつが親父を殺す筈ねえよ」

「…充さん自身も、そう思ってたみたいだよ。なのに架々見がそうさせたのは……俺が充さんに懐いてたせい、かな…」

陸が悔しげにそう呟くと、風弓は勢い良く首を振った。

「お前みたいな状況下に四年間も置かれたら、誰だって嫌でもそうなる。んなこともう気にすんな、陸」

「…有難う、風弓。でも兄さん…どうして急に充さんのことを?」

そうだ、何故京が突然父のことを気に掛けるのだろう。

「ん…余り確証のないうちに不用意な発言は避けるべきだろうけど――才臥さん、本当に亡くなってるのかなと思って」

「………へ…?」

「兄さん?!」

「いや、飽くまで僕の推察に過ぎない点もあるから、気を悪くしないで欲しいんだけど…彼の死には幾つか気掛かりなことがあるんだ」

(気掛かりなこと、って…?)

「まず才臥さんが、いつどんな形で命を落としたのかが不透明過ぎる。風弓くんも亡くなったと思しき彼の姿を、遠巻きに見ただけだろう?傍に寄って、遺体に触れられでもしたら困る理由があったのかな」

「…!それは…」

「誰だって家族の亡くなった姿を突然目の当たりにさせられたら、冷静じゃいられなくなるよ。君を動揺させた隙に洗脳を施し、炎夏へ向かわせれば奴らはその間に才臥さんの身を隠すことも出来る」

そのために風弓の注意を陸に向けて、月虹から一時的に離れさせたというのか。
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