いとしいこどもたちに祝福を【後編】
「それで月虹の狙い通り俺が風弓に連れ戻されていれば、充さんの死をなかったことにも出来た…?でも、架々見は充さんの死を明言してたじゃないか」

「…あの口振りからすると、確かに嘘は言ってないように見えるけどね。けど、いくら捜しても才臥さんは見付からないんだよ」

「…さがす?」

晴海が風弓と揃って首を傾げると、陸は「あ…」と小さく声を上げた。

「僕ら霊媒師の本領は、故人の霊と対話出来ることだよ。陸はそういう力の使い方を教わる前に攫われたから、判らなくても仕方ないさ」

京の説明に、陸は少しばつの悪そうな顔で苦笑した。

「固有の人格を持つ故人への干渉は、個を持たない精霊と交信するより難しいんだよ。今度ちゃんと教える。僕も月虹へ向かう前に何度か試してるけど、それでもまだ断言は出来ないからね…」

「あの、父が見付からないっていうのは…京さんが父と面識がないから、とかではないんですか?」

「うん。余り生前の容姿は関係ないよ、姓名とか出自とかの個人情報は詳しく分かると助かるかな。これに関しては父さんにも協力して貰って、もっと慎重に調べるよ」

すると、今まで黙って話を聞いていた悠梨がふと「そうだな」と呟いた。

「まあ、あんな阿呆でも霊媒の腕はお前より上だからな」

…いくら妹婿とはいえ、一国の領主を阿呆呼ばわりして大丈夫なのだろうか。

しかし陸が「伯父さん、相変わらずだな」と笑って流した辺りを見ると、どうやらそれが普通らしい。

「さて、あいつのことだ。お前たちの帰りを相当やきもきして待ってるだろうから、立ち話はそろそろ切り上げて顔を見せてやれよ」

悠梨はそう言って、ずっと仏頂面だった表情をほんの少し和らげた。

(…笑っ、た?)

周や京と違って余り笑わないし、口数も少ないのでどんな人なのか推し量り兼ねていたが。

口調が多少辛辣なところはあるようだが、特に恐い人ではないらしい。
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