極上の他人
大好きな人に抱きしめられることなんてこの先ないかもしれないから、せめて今だけでも、輝さんの温かさに浸っていたい。
輝さんが言うように、自分で自分を幸せにするために生きていかなければならないのならば、今こうして抱きしめられている時を糧に乗り越えていきたい。
いきたいけれど……輝さん……大好きなのに。
自分自身の思いをどうにか昇華させて、輝さんを諦められるようにと、泣きそうになっていると。
「あー、もう。いい加減にしろ」
「えっ。ひかる……」
突然、唸るような低い声が聞こえたかと思うと、私の体はベッドに押し倒された。
はっと視線を上げると、輝さんの苦しげな顔と、その向こうに天井が見える。
私の両手をシーツの上に押さえつけながら、輝さんはぐっとその顔を私に近づけた。
「俺が史郁を何とも思ってないなら、見合いをボツにした時点で距離を置いてるし、店に来たとしても単なる客として相手をするだけだ」
「……ひ、ひかる……さ、ん」
「本当なら、俺が店に立つなんてこと滅多にないんだ。あと何店舗か出す予定で忙しいし、オーナーとしての雑用も多い。
史郁との見合いの日、久しぶりに店に出たせいで、店員がみんな、俺の存在を意識して緊張しながら仕事をしていたくらいだ。
だけど、俺はその日以来連日店に出てはその度に千早にからかわれてる。
この意味、わかるか?」