極上の他人
スマホを持つ手に力が入って、反対側の手に持っていた箸を、箸置きに置いて。
「輝さん、私、頑張ります」
私の仕事なんて詳しく知らない輝さんに、思わずそう言ってしまった。
心のどこかでは、輝さんには迷惑な意気込みだろうな、と感じつつも、言葉は止まらないし、弾む感情も抑えられない。
そんな私の様子を電波越しに感じ取ってくれたのか、輝さんはくすりと笑った。
『良かったな。俺には住宅のことはよくわからないけど、史郁がそんなに興奮するほどの案件ならとことん頑張れよ』
私を励ますような、優しい声をかけてくれた。
「はい、頑張ります。きっと、勉強させてもらうことばかりで役に立たないと思うんですけど、この先もずっと今の会社で生きていくつもりだし……」
『生きていくって、大げさだよ』
「いえ、自分で自分を幸せにしろって、輝さんも言ってくれたし、まずは仕事を頑張って足元をしっかり固めていかないと」
私は、輝さんに言われた言葉を思い返すように呟いた。
両親からの愛情に恵まれなかった私は、小さな頃から周囲の友達が当然のように得ている幸せからも縁遠く、孤独ではなかったにしても寂しかった。
じいちゃんとばあちゃん、そして誠吾兄ちゃんに大切に育ててもらったけれど、両親から愛されることを当然のことのように思い、受け止めている友達の中ではかなり異質な存在。
参観日や運動会、あらゆる学校行事には誠吾兄ちゃんが顔を出し、私を寂しさからすくいあげてくれたけれど、それでもやはり。
子どもって、両親から愛されるのが普通なのに、どうして私は捨てられたんだろうと、いつも悩んでいた。