極上の他人
その言葉だけで、私がこれまで抱えてきた苦しみや重荷を全て捨てることはできないけれど、私が頑なに守っていた苦しい考えを切り崩すきっかけを与えてくれたのかもしれない。
そして、親だからといって、自分の子供を無条件に愛するわけではないと、認めるきっかけをくれたかもしれない。
きっと、私の事情は誠吾兄ちゃんから詳しく聞いていたんだろう。
私を見捨てた両親がそれぞれに再婚して幸せに暮らしていることさえ知っていた輝さん。
そのことも、誠吾兄ちゃんから聞いていて、思わず口にしてしまったに違いない。
そのことからも、よっぽど密な距離感で誠吾兄ちゃんと付き合っていて、信頼を得ていたんだろうとわかる。
この誠吾兄ちゃんのマンションの玄関の暗証番号を知っていることからもそれは明らかだ。
私は、電話の向こうで私を心配しているだろう輝さんに、明るい声で囁いた。
「私はちゃんと生きていくって決めたので、大丈夫。両親に愛されていないことは、私のせいじゃないし、そのことを私のこれからの未来を左右する理由にはしたくないから。
とにかく仕事を一生懸命頑張って、生きていく足場を固めて。そしていつか……愛する人と結婚できればいいなって、そう思えるように努力していこうって決めたので。
大丈夫」
輝さんが、私の気持ち次第で未来は明るいと、そう教えてくれたから、両親のことを嘆いて時間を無駄にすることはやめようと、そう考えられるようになった。