極上の他人
だからといって、これまで抱えていた負の感情を今すぐ全てクリアにすることは無理だけど。
そうしたいと、思うきっかけを作ってくれた輝さんには感謝している。
そして輝さんは、電話越しだとはいえ、強い口調から私の本気の思いを受け止めてくれたのか、しばらくの間無言で考え込んでいるようだった。
私も、スマホを両手でぎゅっと握りしめて、輝さんに伝えた言葉を何度か反芻していた。
口に出してこそ気づく自分の本音。
両親に愛されてないのは私のせいじゃない。たまたま私は運が悪かったと、そう思うしかない。
そして、私は生きていくしかない。
自分で自分を幸せにしていくために、前向きに明るくしっかりと、地に足を付けた人生を送ることができるように、とりあえずは仕事を頑張ろうと思っている。
すると、スマホの向こう側から、輝さんが小さくため息を吐いたような様子が伝わってきた。
『史郁は、ちゃんと幸せをつかめるよ。自分の手で、自分を幸せにしてみろ。両親を切り捨てる必要もないけれど、求める必要もない』
「求めなくても、いい……?」
『ああ。両親の愛情がなくても、ちゃんと生きていけるし幸せになれるんだ。……俺だって、側にいるから』
「輝さん……」
私の側にいる、と優しく言ってもらえて、私の気持ちはふっと軽くなった。