極上の他人
先週末、熱を出して弱っていたせいか、やたら優しさを与えられて、そして私を追いつめるような強引さを見せられると。
「……私、誤解してしまいそうです。これ以上、甘やかさないでください」
『甘やかされてもいいんじゃないの?一人で生きていくのも、自分で幸せを掴むことも必要だけど、男に甘やかされるのは女の特権だぞ』
「特権って……そんなこと考えたこともなかったし、誰に甘えていいのかも」
『じゃ、その特権は俺限定で行使すればいい。男に甘える幸せをちゃんと知るのも幸せにいくためには必要なんだ』
私に言い聞かせるように、そしてその言葉にかなりの自信を持っているように呟く輝さんの声は、電話の向こう側にいるとは思えないほど近くに感じる。
その一方で、これまで何人の恋人を愛し、甘えさせては幸せにしてきたんだろうと想像して切なくなる。
一体、私は何人目の『甘えさせたい女』なんだろう。
ふとそんなことが浮かんで言葉を続けられなくなった。
見たこともない輝さんのこれまでの恋人の姿を勝手に想像して、勝手に落ち込んでいく。
私にそんな権利なんてないとわかっているのに、好きな男性の過去が気になってしまう。
黙り込んだ私の気配を感じ取ったのか、輝さんがくすりと笑った。
『史郁を甘やかせて、どろっどろにしてやるから、ま、楽しみにしてろよ』
「どろっどろって……」
『史郁を大切にするから、何が起きても悩まずに俺に頼っていいんだぞ。史郁は仕事に集中して、自分を成長させることだけを考えろ』
ふとその声音が変わったような気がした。