極上の他人
『何が起きても』と呟いた声に、輝さんには不似合いな不安が感じ取れる。
私のことで、何か気がかりなことでもあるんだろうか。
「輝さん……何が起きてもって、大げさな……これからは、体調を崩すようなことはないように気を付けますから大丈夫ですよ」
『んー。体調以外にもいろいろと、だ。不安に思うことや苦しいこと、なんでも俺に話してくれ。少なくとも俺は史郁よりも長く生きているから、役に立つはずだ』
「あ、はい……」
不安だとか苦しい事だとか、マイナス思考前提の言葉を呟く輝さんに、再び違和感を覚えた。
口調は普段と同じ軽やかなものに戻っていたけれど、わざと軽やかさを装っているのかとも感じた。
どこか低いテンションが、電話越しに伝わってくる。
「輝さん……?私、今は不安はないんで、大丈夫ですよ」
私は、自分の不安を隠し、輝さんの言葉を軽く流すように、明るく言った。
緊張しているのかもしれない。