極上の他人
その緊張感は、単純に輝さんからの電話にときめいていることからくるものなのか、それとも普段とは違う輝さんの様子によるものなのか……わからないけれど。
「輝さんに心配してもらうのがもったいないくらい、私は平凡で何事もない毎日を送ってるんですよ。そりゃもう、仕事と家の往復……あ、時々輝さんのお店に寄らせてもらってますけど」
ふふっと笑った私の声に続いて、輝さんからも明るく軽やかな返事が返ってくるものだと思っていたけれど、スマホからは何も言葉は聞こえない。
輝さんの気配だけが伝わってくる。
「輝さん……?」
そっと呟いた私の声に呼応するかのような、小さな吐息。
何かに不安になっているような気配。
そして、ようやく輝さんの低くて硬い声が届いた。
『平凡な毎日、上等だろ?仕事に打ち込んで、家には寝に帰るだけってのも、今しかできないことだから、せいぜい楽しんで自分を成長させろ。
で、俺が会社にちゃんと迎えに行くから、夕食は俺の手料理を食べて体力温存だ』
「え、でもそれって、おかしい……」
『おかしくても納得できなくても、今は俺に甘えておけ。せっかく仕事で自分の未来を明るいものにできそうなんだろ?地に足をつけて生きていくんだったら、利用できるものは利用して、素直に甘えておけ』
私が口を挟むことを許さないように、一気にそう言った輝さんの真意がよくわからない。