極上の他人
そして、まだ熱さの残るお茶を乱暴に飲んでむせてしまった。
「大丈夫かよ」
くすくす笑いながら私におしぼりを渡してくれる千早くん。
「せっかく輝さんが朝から準備してくれた夕食なんだから、味わって食べろよ」
「ん……でも、」
「でも、は、なし。ちゃんと食べて明日からも仕事頑張れ」
「わかってる」
わかってるけど、お店に来ても輝さんから特別に相手にされるわけでもなく、ただ夕食を食べて帰るだけで。
確かに送迎までしてくれる上級のオプション付きだけど。
たとえ仕事だとわかっていても、輝さんが女性と楽しげに過ごしているのを目の当たりにするのって、やっぱりつらい。
輝さんが好きだと気づかなければ良かったと、思わずにはいられない。
「千早くん、私、明日からもう……」
ここには来ないと、言いかけて俯いた時、頭上に聞こえたのは大きな舌打ち。
え?と視線を上げると、眉を寄せて苦々しげな表情をしている千早くん。
普段の飄々とした様子とはうってかわって、負の感情を露骨に表情に乗せている彼に、驚いた。
「ち、ちはやくん?」
小さく声をこぼした私にも気付かないのか、千早くんは一点に視線を向けたまま微動だにしない。
それに不安を覚えた私は、千早くんの視線をたどって振り返った。