極上の他人
その瞬間、
「見ない方がいいっ」
焦った声が聞こえたけれど、私は既に千早くんが見ていたに違いないものをとらえていた。
「あ……」
千早くんの言葉に従わずに視線を輝さんに向けた私は、そう呟いて瞬きもせず、ただただ一点を見ていた。
ひとりの女性が、輝さんの腕を掴み、身体を摺り寄せていた。
紺色のスーツを着ている後ろ姿は華奢で、アップにした髪は、店内の照明に照らされて茶色に輝いている。
身長が180センチ以上はある輝さんよりも10センチ低いくらいの長身の女性。
輝さんに顔を寄せて必死で何かを訴えているように見えるけれど、顔が見えないせいか、よくわからない。
耳元を飾るパールのピアスがキラキラと輝いている。
そんな女性を無表情な様子で見下ろす輝さんは、天井を仰いで大きなため息を吐いたかと思うと、ひと言ふた言何かを呟いた。
そして、その女性をお店の入り口に半ば強引に連れて行くと、ドアを開けて、その女性と共に外へ出て行った。
その直前、女性を先に外へと押しやりながらちらりと私を見遣った輝さんは、私を安心させるように口角を上げたけれど、そのままあっけなくドアを閉めた。