極上の他人


私は大げさだなと笑いながらスマホを取り出した。

「とりあえず、輝さんに今から行くってメール入れておくね」

「あ、マカロンで有名な『トマトサラダ』をよろしくって書いておいてね」

艶ちゃんの弾む声に、え?と振り向いた私。

トマトサラダが有名だなんて知らないし、食べたこともない。

そんな私の気持ちが顔に現れていたのか、艶ちゃんはにっこりと笑った。

「凍りそうで凍っていない、つめたーいトマトにたっぷりとかけられたドレッシングがおいしいらしいんだよね。一日限定10食らしいから、予約しておいてよ」

「わかった……そうなんだ、トマトサラダか。食べたことなかったな」

思わず低い声で呟いた。

マカロンに通い出してしばらく経つけれど、トマトサラダなんて……食べたことはもちろん、有名だってことも知らなかったことに、少し落ち込んだ。

輝さんは、いつも私の健康を考えてバランスのいい食事を用意してくれるけれど、その中にトマトサラダはなかった。

「何落ち込んでるのよ。ふみちゃんには毎日おいしい食事が用意されてるんでしょ?それも栄養バランスをちゃーんと考えられた愛情メニュー。
トマトサラダくらい、他のお客さんに譲りなさいよ」

私の背中を軽くポンと叩いた艶ちゃんは、ちょうどホームに入ってきた電車に視線を向けながら楽しげに笑い声を上げた。


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