極上の他人

その日もマカロンのお店の前にはお客さんが長い列を作っていた。

ちょうど夕食時の混み合う時間帯、その列の横をすり抜けて、恐縮しながらお店のドアを開けた。

「いらっしゃいませ」

ちょうど入口の近くにいた千早くんに声をかけられてほっとした。

輝さんに呼ばれているとはいえ、列に並ぶこともなくいつも優先的にカウンターに座ることに申し訳なさを感じているせいか、お店に入る瞬間はいつまでたっても苦手だ。

こうしてお店に足を踏み入れた途端、女性客からの厳しい視線が一斉に集まるような気がして居心地も悪い。

「あ、千早くん、今日は友達も一緒なんだけど……、輝さんは」

小さな声で尋ねると、千早くんはにっこりと笑ってくれた。

「輝さんから聞いてるよ。お友達の分の夕食も用意して、さっきからそわそわ待ってるし」

「え?そわそわ……?」

「ああ、ふみちゃんからメールもらってからずっとにやにやしてる。いつもふみちゃんを迎えに行く時、素直に店に来てくれるか心配してるのに、今日はふみちゃん自らこの店にお友達を連れてくるって言うからかなり上機嫌」

からかうような声で教えてくれる千早くんは、カウンターの向こうにいる輝さんを見ながら肩を震わせた。

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