極上の他人
「最近は、一人も子供を授かっていない夫婦に対しては周囲の人も気をつかってそのことに触れないことも多いんだけど、私には葉乃がいるから『一人っ子はかわいそうだよ』とか『二人目はまだなの?』って何度も聞かれて。その度に笑って『なかなか授からなくて』って軽く答える度にどんどん落ち込んでどうしようもなかった」
どこか震えるその声に、私は自分が余計なことを聞いてしまったかもと、後悔した。
薬袋のことなんて聞かなければ良かったと、唇をかみしめる。
「あ、亜実さん、無理して話してくれなくてもいいですよ。私……薬袋を見つけて、亜実さんが病気なんじゃないかと気になっただけで……」
焦った声でそう声をあげた。
すると、亜実さんは小さく笑い声を上げた。
「まあ、私が一番つらいのは、周囲の無理解だから、それさえ乗り越える強さを持てれば、いいんだけど。
とは言っても、自分がそう思えたのは最近で、旦那のおかげでもあるのよね。
……うちの旦那、いいオトコだからさ」
亜実さんはくすりと笑い、旦那さんへの甘い気持ちをそのまま表情に乗せた。
「お互いの両親から、私が仕事を続けているから、敢えて一人しか子供を持とうとしていないんじゃないかと嫌味を言われることもあったのよ。旦那はそんな時はいつも『俺たちは今のままでも十分幸せだ。それをわからずに亜実を苦しめるのはやめろ』って怒ってくれるし、私の体のことも話してくれたの。……葉乃をあれだけかわいがってるんだから、子供はもっと欲しいと思ってるはずなのに、そんなことちっとも口にしないし私を一番に思ってくれる」
亜実さんはそこで言葉を区切り、へへっと笑った。
目じりは下がり、愛しい旦那さんのことを思って口元は緩んでいる。
幸せそうに笑う顔は、会社では滅多に見られないほどに輝いている。