極上の他人
そして、そろそろ会社が近いとわかる見慣れた景色を見ていると。
「そういえば、誠吾先輩が帰ってくるんだろ?」
思い出したような輝さんの声が響いた。
「あ、来月だったかな?日本で会議があるから一週間ほど帰るって……輝さんにも連絡があった?」
「ああ。俺の家に史郁が来てると思っていたのにいないから驚いていたけどな」
「え……?どうして?」
「ん?四六時中俺らが一緒にいるって思っていたみたいだな。確かにそれは俺も望むところだけど。この頑固なお嬢様に、仕事で一旗揚げるまでは結婚しないってお預け食らってるって言っておいたから。誠吾先輩が帰ってきたら、せいぜい突っ込まれて困ってろ」
くすくす笑いながら話す輝さんは、赤信号で止まると同時に左手で私の頭を小突いた。
「いたっ。お預け食らってるなんてひどい。私だって我慢してるのに」
「我慢なら、小さい頃に一生分したんだからもういいと思うけど?」
「そ、そんなこと……」
「我慢するのはもういいんじゃないのか?
俺は、仕事がうまくいかなくて唇かみしめてる史郁だって愛してるぞ」
「そ、そんなのいつもだもん。私、自分が本当に満足できる仕事なんてしたことないし。テレビで紹介されるほどお店を繁盛させている輝さんの横にいる自信もない」
そう思っているのは本心だけど、意識して軽く言い、へへっと笑って見せた。