極上の他人



輝さんに優しくされただけで、気持ちは浮上して、お客様の意向を少しでも実現してあげようという気持ちになってくるから、私って単純だな。

「ああ、偉い偉い」

私の頬を撫でてくれる輝さんの指先は相変わらず優しいけれど、どこか物足りない。

結婚して1年。

いつもお互いの体温が触れ合う距離で過ごしながら、愛を交わしてきた毎日。

私の全てはとっくに輝さんに調えられて、こうして近くにいるだけで体のあちこちが熱くなるというのに。

今だって、私を試すように輝さんは私の鎖骨を撫でながら余裕の笑顔を向けてくる。

その笑顔は私を虜にした魔法のようなものだということを、きっとわかっているに違いない。

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