極上の他人
「大丈夫なんです。いつものことで慣れてるから」
「こんなことに慣れるなよ。史郁は何も悪いことをしてないのに、そんなに怯えることはないんだ」
「うん……」
私の体全ては彼に覆われ、身動き一つできなくて、息苦しくなる。
「あ、あの、輝さん……」
目の前にある輝さんの胸を押し返そうとしても、ぴくりとも動かなくて、私を抱きしめる力は一層強くなった。
それと同時に私は思わず咳き込み、けほっ、と小さく息を吐く。
何度か咳が続いた後、ようやく私の様子に気づいたのか輝さんの腕の力が緩み、恐る恐るというような表情で私の顔を覗き込んだ。
「もしかして、苦しかった、とか?」
「はい、苦しかった、です」
「あ、悪い。史郁の泣きそうな顔を見てるとつい、な。悪い悪い」
ははは、と笑いながら、輝さんはゆっくりと私をその胸から離して距離をとった。
相変わらず私の肩に置かれている手にちらりと視線を落とすと、瞬間輝さんの手に力が入った気がしたけれど。
「これくらい、いいだろ?今、史郁から手を離したくないんだ」