極上の他人
「史郁、お前の母親は今では再婚して、再婚相手の娘と幸せに暮らしているんだ」
「うん……」
輝さんの言葉はまるで刃のようで、私の感情の奥底に隠していた黒い思いを呼び起こす。
今、輝さんから聞いたことは、以前、じいちゃんとばあちゃんがこっそりと話していたのを盗み聞きして知っている。。
母さんは、私を捨ててまで一緒にいたいと願った男性と結婚し、その男性の子供と一緒に暮らしている、と。
『ふみちゃんには知らせないでおこう』
じいちゃんとばあちゃんは、私が傷つかないようにそのことを伏せたまま亡くなった。
私を愛して、そしてどんな悲しみや苦しみからも守ろうとしてくれた二人。
その優しい気遣いがわかるだけに、聞きたいことも聞けず、母のその後は知らない振りで過ごしていた。
そして、病気で相次いで亡くなった二人の葬儀の時ですら姿を見せなかった母のことを、『幸せになってほしい』とはどうしても思えない私は、そんな自分が冷たい人間のように思えて、生きていくことがさらにつらくなった。
普段はそんな感情を心の奥底に隠して、気付かない振りをして生きているけれど、体調を崩したり、精神的に弱ってしまうと途端にだめになる。