極上の他人
「史郁の両親は、離婚したことによって、幸せを手にした。今では二人が結婚していた過去なんてなかったかのように順調に幸せを築いているんだ。
史郁を捨ててでも手にしたかった幸せを、望みどおりに掴んだってことだ」
「私を捨ててでも・・・・・・」
「そうだ。自分の娘である史郁を捨ててでも、だ」
私をきつく抱きしめて耳元に囁く輝さんの言葉はまるでナイフのように私の心に刺さる。
今でさえようやく生きている私の心の中に突き刺さる刃は鋭すぎて体をすっと突き抜けるようだ。
いっそのこと、その刃が私の全てを奪ってくれればいいのに、と何度願ったことだろう・・・・・・。
私を捨ててでも手にしたかった幸せ。
それは、私を捨てなければ手に入れられなかった幸せだということだ。
「じゃあ、私は、私は・・・・・・なんの為に生まれてきたんだろう。私がいたら幸せになれないなら、生まなきゃ良かったのに」
私は大きな声で叫びながら、流れてしまう頬の涙を止めることもできないまま、輝さんの胸の中でもがいた。
その胸を両手で叩き、自分の中に荒れ狂っている感情のコントロールもできず、ひたすら『どうしてよ、どうしてよ』と叫び続けた。