三十路で初恋、仕切り直します。

とりあえず今は、こんな他愛もないやりとりをしながら、こっそり泰菜を迎える日の準備をしておこうと思う。


今日デパートで買ってきた馬鹿みたいな値段のする有名なコスメブランドのフレグランスシャンプーだとか、日系デパートで扱っていた、泰菜が前に気に入っていると言っていた京都の茶舗の茶葉だとか、寝室に置いておくのに丁度いい透かし彫りが美しいアロマランプだとか。


どれもとてもささやかなものだけど、近頃空いた時間を見つけては繁華街へ出向き、ブランドのバッグや高価なアクセサリーなんかよりも泰菜が喜んでくれそうな、気の利いた日用品をひとつひとつ買い集めている。

泰菜が来るのを待ちきれないとでもいうような自分の行動や浮かれっぷりを笑いたくなってしまうが、それを本心から愉しんでいるのだから仕方ない。






窓の外ではまた突然の豪雨がはじまった。


泰菜もシンガポールの乾季に起こる極端な雨には困ることになるだろうなと思いつつ、頻繁にスコールが起きることはしばらく黙っていようと考える。

ベタな画だけど、突然の雨で身体の線や肌の色が透けて見えるほど着衣をずぶ濡れにした泰菜の色っぽい姿を想像すると、それだけで胸があやしく疼いてくる。おまけに濡れそぼったまま二人でバスルームに向かい、肌に張り付いた服をお互いに脱がせ合うことまで想像してみるとたのしくてたまらなくなってくる。



『法資?……なんだか今日はご機嫌みたいね』



不思議そうに訊いてくるモニター越しの恋人にとびきり甘い声で「おまえと話せるのがうれしくてな」と告げると、度重なる口説き文句に耐えかねたように泰菜が『馬鹿』と怒ったように言いながら顔を伏せてしまう。





---------惚れた相手に負け続けることは、本当に愉快なことだった。






《end》
< 139 / 153 >

この作品をシェア

pagetop