三十路で初恋、仕切り直します。

「…身内……?」


子供の頃はたしかにそうだった。



離婚して母親が出て行った泰菜の家と、母親が30半ばで夭逝した法資の家は、父子家庭同士ということもあって父親同士の気が合い、自然子供同士も一緒にいる時間が長くなった。


小学生のときはずっと、泰菜は放課後に法資の家で、法資や英達、そのころまだ存命だった法資の祖母と一緒に過ごしていた。

法資と一緒に宿題をしたり、ときどき英達に教わったり、法資の祖母と夕飯の準備をしたり、おつかいに行ったり、まるで桃木家の一員であるかのように過ごした時期があった。



けれど中学生になった頃から、お互いに家の行き来をしてそれまでと変わらない付き合いを続けながらも、法資とは学校では互いにあまり口を利かなくなり、学年がひとつ上がるごとにそれは顕著になった。


仲が悪くなったわけではないけれど、高校生にもなると法資の家で放課後過ごすことはすっかりなくなり、学校だけでなく地元で顔を合わせてもあまり喋ることはなくなっていった。

なんとなく、このまま法資とは距離が出来たままになるんだろうなと思っていた矢先にあのキスの件があり、以後は在学中に口を訊くことがあっても、お互い気まずさに気付いていないふりをするかのようなどこか白々しい空気があった。


卒業した後なんて一斉送信のメアドの変更メールを送るくらいで、この10数年ろくに連絡も取っていなかった。




いまさら『身内みたいなもの』だと言われるには、没交渉だった時間はあまりに長い。




それだけに昨日偶然再会したときは、会った瞬間からごく自然に仲が良好だった頃のように喋り合うことが出来て、ほっとするよりも、もともと自分と法資は子供の頃はこんな雰囲気の間柄だったんだよなと懐かしく思った。気安く軽口を叩き合えるのが、本来の自分たちの関係なのだと。



法資も自分と同じように感じていたのだろうか。



でもきっとそれは自分が感じた、うれしさを伴う安堵感とは少し違ったものなのだろう。




ただ近くにいるだけでなんの緊張感も要らない、心を揺さぶられるものもない、波風の立たない凪いだ関係を『身内』みたいなものだというのならば、法資にとって自分はたしかにそういうものでしかないのだろう。




< 45 / 153 >

この作品をシェア

pagetop