愛し*愛しの旦那サマ。

そして、玄関ドアを施錠する音を聞いた後、彼女の用意してくれた朝食に箸をつけ始める。


静か、だ。


彼女―…

幸代がいない室内は、やけに静寂な空気が漂う。

朝食に黙々と口をつけながら、そんなことを思っていると、


「……」


昨夜から、ソファーに置きっぱなしにしたままの携帯電話が鳴り出した。

幸代か?

そう思って、席を立ち、携帯の液晶画面を確認すると、そこには、


「……」


血縁以外の同性で一番長い付き合いなる人間の名前。


また何かの誘い連絡か……


画面に表示された名前を眺めながら、そう思うと同時に出る溜め息。

とりあえず出てみるか、と、通話ボタンを押そうとする。

が、同時に着信音は途切れてしまう。

すると直ぐに、今度は家の固定電話がクラシック音楽を流しだす。

まぁ―…着信相手が誰か、なんて受話器をとならくてもわかる。

もう定番化だな。

そんなことを思いながら、


「櫻井です」


と、一応、名字を名乗り、受話器をとる。


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