たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~
囁きかけられる言葉は間違いなく甘い。だが、これに頷いてしまったらどうなるか。そのことを本能的に察している亜紀は、何も応えることができない。そんな彼女の姿に惟は『分かっている』と言いたげな表情を向けるだけ。そのまま、彼は慎一に声をかけていた。



「慎一さん、亜紀ちゃんと二人だけで話したいんですけど、いいですよね?」


「当り前じゃないか。というより、気がつかなくて悪かったな。庭でもどこでも好きなところで話せばいい。その方が亜紀も納得できるだろうし」



どうやら、慎一の中ではこの話は決定事項になっている。そんなことを感じた亜紀は、思わずうなだれることしかできない。そんな彼女の顔を覗き込むようにした惟が、「ちょっと外に出ようか」と声をかける。さすがにこれまで拒絶することはできない。そう思った亜紀はどこか引きつった顔で、惟の後をついていく。

その彼が亜紀を案内したのは、咲き初めのバラで埋め尽くされようとしているアーチ。そういえば、ここであの人に会ったんだ。そんな、おぼろげな記憶の中に残る光景を思い出している亜紀の体を惟がしっかりと抱きしめてくる。

このことは、亜紀にとっては完全に想定外。羞恥心が刺激されたのか、彼女の顔が一気に赤くなり、逃げようとジタバタする。だが、男の惟の腕から逃げられるはずもない。そのまま彼女の髪に顔をうずめるようにした彼は、耳元でそっと囁きかけている。



「ねえ、亜紀ちゃん。さっきの話、本当に真剣に考えて。絶対に君にとって不利になるようなことはないはずだから」


「ど、どうして?」

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