たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~
誰かが出てくる。そう思った瞬間、亜紀は思わず隠れようとしている。なにしろ、看護師に隠れて部屋を抜け出したという自覚があるからだ。だが、その相手の顔を見たとたん、彼女は安心したような声を上げることしかできなかった。



「山県のおばさま……」



そう。出てきた相手は惟の母親である山県玲子(ヤマガタレイコ)。彼女が出てきたということは、間違いなく惟は隣の病室にいる。そう思った亜紀は、その場から動くことができなくなっていた。そんな彼女の気配を感じたのだろう。玲子が満面の笑顔で亜紀に声をかけてきていた。



「亜紀ちゃん、そんなところにいる必要はないでしょう? 惟もあなたに会いたいって思っているんだし。遠慮しないで入っていらっしゃい」


「で、でも……おばさま……」



玲子の誘いの言葉に、亜紀は素直に頷くことができない。その最大の理由は、彼女の今の格好にもあるのだろう。なにしろ、今の彼女は俗に言われる病棟服を着ている。

学校の校庭で意識を失い病院に運ばれた以上、これに文句をつけるつもりはない。だが、今の彼女は惟に対する思いをよりはっきりと自覚したばかり。恋に恋する女子高生としては、そんな恰好で好きな人に会いたくない。そんな思いから、彼女の足はその場から動こうとはしない。

もっとも、玲子にはそのようなことを気にする様子が微塵もない。彼女は亜紀の手をガッチリと握ると、ニッコリ笑いかけてくる。



「亜紀ちゃん、遠慮しなくてもいいの。それより、おばさまはないでしょう? お義母さんって呼んでほしい部分もあるけど、それが無理なら名前で呼んでほしいわ」
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