凪とスウェル
携帯を持ったまま、銅像のようにじっとしているすずを、俺はずっと見てたよ。


すずを泣かしているのは、他でもない俺で。


それなのに、涙を拭いてやることも、抱きしめてやることも出来なかった。


何度も足が飛び出しそうになって。


それを抑えるのに必死だった。


日が沈んで、どんどん寒さが増して、暗くなっていくのに。


すずはしばらくそこから動かなかった。


俺は、その姿を何度もカメラに収めたよ。


初めて撮るすずの写真が、こんな悲しい写真になるなんて思いもしなかったけど。


俺、すずの写真が一枚もないから。


一枚一枚、心を込めて。


胸に刻むように撮ったんだ。


遠くから撮ってるから、どんなにズームしてもあれが限界で。


すずを知ったヤツじゃなきゃ、一体誰なのかわからないくらいの小さな画像だったけど。


それでもバカみたいに、何枚も似たような写真を撮った。


これでもう二度と会えないんだと思ったら。


それ以外のこと、他には何も出来なかったんだ…。
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