やくたたずの恋

     * * *


 ……好きな人ができれば分かる、かぁ……。
 志帆の家での仕事を終え、『Office Camellia』へと戻って来ていた雛子は、ソファに腰掛け、じっと前を見据える。視線の先には、正面にあるデスクに着いている恭平がいた。
 星野の言った通りに、愛にもいろいろな形があるのかも知れない。では、このおっさんを好きになるとしたら、どんな形になるというのだろうか?
 激しく燃えるような恋――たとえば『タイタニック』のジャックとローズのような恋は、こいつとは無理だろう。船の先に二人で立ったら、「てめぇ、Bカップじゃねーか!」と恭平に海に突き落とされてしまいそうだ。
 では、じんわりとした恋はどうだろう? じんわり……じっくり……コトコト……煮込んで……。
 スープでも仕込むかのようなイメージに囚われ、視界の中の恭平が、ゆっくりと鍋の中でぐつぐつと煮込まれ始める。
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