やくたたずの恋
 面倒なことからは、逃げるに限る。それが人生の鉄則だ。
 ならばそれに従うまで、と恭平は部屋とは反対方向に逃げ出そうとした。急いで駆け寄った雛子は、悦子を押し退け、恭平のジャケットをすんでのところで掴み、上体ごとこちらへと向かせた。
「面倒くさい」「超ダルい」「何だよこのBカップ女」
 雛子へと向いた恭平の顔には、そんな文字が張りついている。
 その返事とばかりに、雛子は「負けるもんか」とゴシック体の特大フォントの文字を掲げ、恭平へと迫る。
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