やくたたずの恋
「それに私、『お嬢ちゃん』じゃないです! 雛子です! 横田雛子! ちゃんと雛子、って呼んでください!」
「あぁ? うるせーな! ヒヨコがどうしたって?」
 雛子の言葉を聞くまいと、恭平は耳穴へと指を入れる。隣にいた悦子は、毛穴の見えないメイクをした顔を大きく動かして頷いた。
「確かに、ヒヨコみたいなお嬢ちゃんよねぇ」
「まったくだ。ピヨピヨうるせーし」
「ふふ。でも、昔の誰かさんにそっくりね。可愛らしいくって、健気なところが」
 悦子が意味ありげに、ピンクのネイルで恭平の腕をつつく。けっ、と苦い息を吐き出した恭平は、目の前で「休め」のポーズで立っている雛子を見た。
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