恋の相手はお隣さん。
「紗英、ジャマ」
「……せっかく持ってきたのに、冷たい」
チラッと響の顔を覗くと、拗ねたフリをして頬を膨らませた。
つれない態度を取るこの人の隣は、私の指定席だ。おすそ分けを口実に強引に上がり込んで、居場所を確保する。響が隣に越してきてから数年続いている攻防は、半ば習慣化しつつあった。
肉じゃがをツマミにして缶ビールを呷りながら、響は私の額を指先で弾いた。
「お前は、ただでは帰らないだろ」
「そうだよ」
響のシャツの袖を引いて、視線を合わせる。それが、いつもの合図。
「キス……して?」
ねだるのは、いつも私。
「それが目的なんだろ」
貴方はそれに応じるだけ。
長い指先が、私の顎をすくい上げる。漆黒の瞳が静かに伏せられ、端正な顔がゆっくりと近づいてくる。さらさらの黒髪が頬にかかり、身を竦ませた時、やわらかな口唇に塞がれた