【完】イケメン*眼鏡*ランデヴー
「………り、悠莉!」
「え……………あ、え、永太?」
やっと現実世界に戻って最初に見えたのは、困った顔をした永太だった。
「なんか……いつもの澪ちゃんが頭から抜けちゃって、完全に『タンホイザー』に見えたよ。」
「ええ。だから言ったでしょ、凄いですよって。」
重低音の歌声、物語、その場面に応じて変わる、澪ちゃんの表情の全てが、澪ちゃんじゃなくてタンホイザーだった。
「澪ちゃんに、会いたい、今すぐ会いたい!」
良く分からないけど、そう思った。こう、背中から頭のてっぺんに向かってぶわっと自分でも理解出来ない強い感情が沸き上がる。
「止めときなさい、今の澪は………ちょっと、悠莉!?」
制止する永太の手をすり抜けて、私は走り出す。
「ん?いちゃし?」
「雅治!すぐに悠莉を止めなさい!」
トイレから戻ってきただろう雅治も話しかけることなく、私はホールの外へ飛び出した。