【完】イケメン*眼鏡*ランデヴー
飛び出してすぐに受付の人に出演者の人とは会えるか聞いたけど、主に澪ちゃんのファンの子で会いたがる子が多いせいか教えてもらえなくて。



途方に暮れて、でも、沸き上がった感情が抑えられなくて外に飛び出し、本能に従ってがむしゃらに走り回る。



不思議と勘に任せて走ったのが吉だったのかもしれないんだけど………いたんだ。



ホールの、人の目に留まらない影の場所に、見知った猫背の細身の人物が。



「澪……ちゃん?」



私の声にピクリ、と微かに反応した澪ちゃんは、いつもと少し違った。



眼鏡の奥の、黒目の大きな垂れ目な二重を鈍い光を放つ澪ちゃん。



それは澪ちゃんじゃなくて、タンホイザーの妖艶な瞳だと思った。



引かれるように澪ちゃんに歩み寄ると、奥歯を噛み締めているのか、くぐもった声の澪ちゃんの声が耳に届く。



「頼む、くま来ねーらんで。」



こっちに来ないで、と言った澪ちゃんのそれは、澪ちゃんの理性の警告だったのかもしれない。



その警告を破り、一歩踏み出した私は、次の瞬間には強い力で引かれ、壁際に強く体を押し付けられていた。
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