それでも、僕は恋をする。
ずぶ濡れになった僕は、あるアパートの前で足を止め、ある一室を見上げた。
明かりが灯っているのが見えると、僕の胸は少し熱くなった。
外階段をゆっくり上り、その部屋の扉まで来ると、僕は大きく深呼吸をし、チャイムを押した。
「は~い」
直海さんの声がした。
どたどたと、足音が扉に近づいてくる。
そして、直海さんは扉を半分だけ開けて顔を出した。
どきどきして、顔を上げられなかった。
直海さんは、ずぶ濡れになった僕を見て驚いたのか、一瞬言葉を失くしたようだったけど、
「入んな」
とだけ言って、僕を招き入れてくれた。
服がぐっしょり濡れていた僕は、玄関で立ち尽くしていた。
直海さんは、急いで洗面所へ行き、バスタオルを持って戻ってくると、
「早く拭きな。風邪ひくぞ」
と言って、僕にバスタオルを軽く投げた。
受け取った真っ白なバスタオルは、ふわふわで少し石鹸の匂いがして、心地よかった。
「とりあえずシャワー浴びな。着替えは俺の貸してやるから」
僕は力なくうなずくと、直海さんに言われるがまま浴室へ行った。
蛇口をひねると、勢いよくお湯が出て、一気に湯気が広がった。
冷え切った体に打ちつけるシャワーは、一瞬感覚がなくて、そして急に熱く感じた。
熱を感じたとたん、僕は自分が今生きていることを思い出した。