それでも、僕は恋をする。
浴室を出ると、きちんとたたまれたトレーナーとジャージが置かれていた。
トレーナーの袖に手を通すと、バスタオルと同じ石鹸の香りがした。
なんだか恥ずかしくてうつむいたまま部屋へ戻ると、直海さんは、
「お。ちょうどいいな」
と言って、にっこり笑い、テーブルにホットコーヒーの入ったマグカップを2つ置いた。
「まあ、座んなよ」
直海さんはそう言うと、床に散らばった本やCDを押しのけた。
僕がラグマットの上に腰を下ろすと、直海さんはコーヒーを僕に勧めた。
マグカップを両手で包み、少しだけ口にすると、想像以上にミルクと砂糖が入っていて甘かった。
だけどその甘さが、体の芯まで届いたような気がして少しほっとさせてくれた。
直海さんは僕になにも尋ねず、ただ、コーヒーを口に運んでいる。
「ねぇ。直海さん」
「ん?」
「……さっきは、ごめん」
小さく呟くと、直海さんは穏やかな笑みを浮かべた。
「リンはなにも悪くないじゃないか。俺の方こそ悪かった。いたずらの度が過ぎてたね」
直海さんのその言葉は、僕を突き刺した。
そして同時に、ふつふつと湧きあがるなにかを感じた。