それでも、僕は恋をする。
「……本当にいたずらだったの?」
「え?」
「あれは、その場しのぎの言い訳じゃなくて、本当にただのいたずらだったの?」
僕の声のトーンが下がったせいか、直海さんの表情は一瞬にして真顔になった。
「なんだよ!どいつもこいつもさ。みんな勝手なことばっかすんなよ!僕の気も知らないで!興味だけで付き合ったりさ、いたずらで簡単にファーストキス奪ったりさ!」
ああ、なに言ってんだ。
こんなこと言いに来たんじゃない。
こんなことが言いたいんじゃない。
「どうした、リン。なにがあった?」
直海さんは、心配そうに僕の顔を見つめている。
「なんでもないよ!もう帰る!」
帰るって、どこへ帰るつもりだ?
今の僕に、帰る家なんてないじゃないか。
一瞬そう思いながらも、勢いよく立ち上がり、玄関の方へ歩き出そうとした時だった。
直海さんにしっかりと手首を掴まれていた。
直海さんはまっすぐ僕を見つめている。
「リン。ここへなにしに来たんだ?」
その静かな問いに、僕の心臓は縮こまった。
「まさか、シャワーを浴びにきただけじゃないだろう?」
直海さんの視線が、痛かった。