それでも、僕は恋をする。
僕は。
僕は……。
憤りと困惑が入り混じったさっき父さんと母さんの顔が浮かんだ。
親でさえ、僕という人間を認めようとしてくれなかった。
だけど。
ここに来れば、直海さんだったら、助けてくれるかもしれない、と思ったんだ。
直海さんなら、僕という存在を認めてくれるかもしれない、と思ったんだ。
それをはっきりと自覚すると、破裂しそうだった僕の心がとたんにしなやかになり、そして、静かに涙が頬を濡らした。
すると、直海さんは僕をぐいと引き寄せ、濡れた頬にそっと触れた。
眼鏡の奥の瞳が、穏やかに微笑んでいる。
そして、僕の唇にふわりと唇を重ねた。
温かい。
ああ。
生きているんだ。
僕は、ここにいるんだ。
ここにいても、いいんだ。
直海さんの服をきゅっと掴んだ。
「さあ。おいで」
直海さんはにっこり微笑むと、指で僕の髪をそっととかした。
体中が心臓になったような感覚だった。
直海さんは僕に優しく触れた。
いたわるように。
愛しむように。
『いいんだよ。大丈夫だよ』
と言ってくれている気がした。
僕は、絡めている指に力を入れた――……。