それでも、僕は恋をする。

僕は。

僕は……。

憤りと困惑が入り混じったさっき父さんと母さんの顔が浮かんだ。

親でさえ、僕という人間を認めようとしてくれなかった。

だけど。

ここに来れば、直海さんだったら、助けてくれるかもしれない、と思ったんだ。

直海さんなら、僕という存在を認めてくれるかもしれない、と思ったんだ。

それをはっきりと自覚すると、破裂しそうだった僕の心がとたんにしなやかになり、そして、静かに涙が頬を濡らした。

すると、直海さんは僕をぐいと引き寄せ、濡れた頬にそっと触れた。

眼鏡の奥の瞳が、穏やかに微笑んでいる。

そして、僕の唇にふわりと唇を重ねた。

温かい。

ああ。

生きているんだ。

僕は、ここにいるんだ。

ここにいても、いいんだ。

直海さんの服をきゅっと掴んだ。

「さあ。おいで」

直海さんはにっこり微笑むと、指で僕の髪をそっととかした。

体中が心臓になったような感覚だった。

直海さんは僕に優しく触れた。

いたわるように。

愛しむように。

『いいんだよ。大丈夫だよ』

と言ってくれている気がした。

僕は、絡めている指に力を入れた――……。






< 18 / 23 >

この作品をシェア

pagetop