それでも、僕は恋をする。
それから十数年。
僕はある地方の市民講演に講師として招かれていた。
壇上で話す僕の後ろには、『死刑と裁判員制度について』という看板が掲げられている。
僕は200人ほどを前にして、自分の研究テーマについて講演を行った。
1時間ほどで講演を終えると、安堵のため息をもらし、控室へ戻った。
パイプ椅子に腰かけ、ペットボトルの水を流し込んでいると。
トントン――。
誰かが扉をノックした。
「どうぞ」
そう言うと、扉はゆっくり開いた。
その姿が見えた瞬間、思いがけない人物の登場に目を見開いた。
「やあ、リン」
「……えっ」
そこに立っていたのは、まぎれもなく直海さんだった。
直海さんは驚異的なほどに、昔と変わっていなかったため、一目ですぐにわかった。
「忘れたのか?俺だよ、駿河直海。リンの家庭教師だった」