それでも、僕は恋をする。
「直海さんも、生きててよかった……ほんとに」
「おおげさだなぁ」
「おおげさじゃないでしょう。手紙も電話も通じなくなったら、心配になるよ」
「まあ、そりゃそうか……悪かったな」
直海さんはばつが悪そうに頭を掻いた。
「せっかくだから、どこかでお茶でもする?」
「悪いな。俺、この後用事があるんだわ」
「そうか。だったら仕方ないね」
「悪いな。じゃあ、またな」
そう言うと、直海さんは部屋を出て行った。
扉がばたんと閉まり、また控室に1人になると、今さっきまでの出来事が嘘のように思えた。
じゃあ、またなって。
連絡先、わからないじゃないか。
思わず苦笑がもれる。
ああ。
あなたはそうやってまた、僕の前から姿を消してしまうんだね。
まるで気まぐれな風のようだ。
決して、つかまえることはできないんだね。
十数年もの時間が過ぎれば、それぞれの時間がある。
積み重ねたものがある。
少しずつ積み重なったものは、簡単には変えられない。
僕たちはもう、勢いだけでは動けない年齢になってしまったのかもしれないな。