この運命を奇跡と呼ぶならば。
「薄桜(ハクオウ)と春花(シュンカ)か…''桜''と''春''か…私達と一緒…」
とても哀しそうに、でも、とても愛おしさがこもった声で『桜』と『春』と、呼ぶ。
そして、頭の中に自分の敬愛する兄の声が響く。
[桜。俺達は2人で1つ。’桜’が咲き誇るのは’春’が来るから、’春’が暖かく人々の心を癒やすのは’桜’が咲くから。片方が欠ければ、’桜’は咲き誇ることが出来なくなるし、’春’は人々の心を癒すことは出来ない。]
そう。それはとても穏やかに。でも、その兄はあの日、私の性で─────
そんな、物思いに耽っていた桜を呼び覚ますかのように追い出した男達が、夕餉だと言って呼びに来た。
「乙宮!!夕餉だ、早く来いよ。」
「何故…?私は何故、お前達と晩飯を食べなければならないんだ?」
「いいからいいから、早くしないとおかず無くなってるかもよ?」
桜はある時から人と関わることをやめていた為、一緒に食べるということもし無かったし、この半日の間で冷たい物言いばかりしていたので、嫌われただろう、とばかり思っていたのに、この人達は懲りずに次々と自分に関わろうとする。それが不思議でなかった。が、桜は
(私が、怪しいから変な動きをしてい無いか見張るためなのだろう。さっきの監察方もその証拠だろうな。それに、見た目だけだろう。上辺だけでも優しくすれば、ボロがでるかも知れない。そう考えたか。)
そう思い直して自嘲気味に笑う。
「あぁ、わかった。」
そうして部屋を後にした。