相容れない二人の恋の行方は
 すぐに立ち去ろうとしたけど、その前にブランケットくらいかけてあげようとブランケットを持って新谷の身体にかけると、目を閉じたまま不快感をあらわにしたような表情に一瞬だけ変化するとブランケットをすぐに取り去ってしまった。再びブランケットを取り上げて身体にかけようとしても新谷の手が固くブランケットを握りしめているため出来なかった。
 起こさないようにそうっと何度も何度も引いたけど取り上げることはできなかった。

 諦めて立ち去ろうとするその前に、ふと視線が新谷のブランケットを握りしめる手に行った。
 さらっとした質感や長く清潔感のある指先はスマートな新谷のイメージ通りだけど、手首の骨のでっぱりや、ゴツゴツとした指の関節、そして大きな手は男性らしい力強さを感じる。
 なぜか急に、昔のとある記憶がぼんやりと脳裏に蘇ってきた。
 私はこの手に一度だけ触れたことがある。たった、一度だけだ。
 編入初日に、学校で再会した新谷に差し出された手を取った時。その時のたった一度だけ。

「……ん……」

 眠りが浅くなっている新谷が身じろいて、じきに起きるだろう、そう思った私はそうっと足早にその場を立ち去った。

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