相容れない二人の恋の行方は

33 予定外の連続

 母が家に戻った時間はちょうど夕食時で、ちょうど父も外出先から帰ってきた。
 来るなら事前に言ってくれれば準備出来たのに、と母に文句を言われ、結局食事は出前でお寿司を取って間に合わせた。私だって、今日実家(ここ)にいるのは予定外だったのに。

「どうぞ。出前寿司なんかお口に合わないかもしれませんが……」
「いいえ、そんなことありません。こっちこそ気を遣わせてしまってすみません。それじゃあ、いただきます」

 父も母も新谷を前に緊張してかしこまって、父はいつもよりお酒を飲むペースが速く、お酒で緊張をまぎらわそうとしているのが娘の私には一目みて分かった。
 でも父にお酒がまわり、母にも少しお酒が入ると一気に場の雰囲気が陽気になって、さっきまでの静かな雰囲気から一変した。
 顔を赤くし、しまりのない表情と口調で完全に酔っ払いオヤジと化した父が新谷にからみはじめる。大学教授という一見お堅い職業に就いているけど家にいる時はどこにでもいる普通のお父さんだ。

「新谷さん、どうぞどうぞ、ここではもっとリラックスしてください。足だってくずしちゃっていいんですよぉ


 両親の前では完全に猫をかぶって礼儀正しく完璧に振る舞う新谷。どう出るのだろうと思ってみていると、にっこり笑って「じゃあ」と言い簡単に足を崩した。作り笑顔なのだろうけどそうは見えないところが昔からすごいと思う。普通に楽しそうにしているように見える。

「いやぁ、しかし箸の持ち方から立ち居振る舞いまで庶民のものとはまるで違うなぁ、ほんとに、こんな狭い家に住む貧乏人の娘でいいのかなぁ」
「真由子さんのご両親、二人とも立派な職業に就いておられるじゃないですか。そんな言い方……」
「いやいやいや……私がね教授になって家族を養っていけるだけの給料をもらえるようになったのはここ数年。それまではただ好きなことを研究する毎日で。それまではずっと家計の支えは母さんだったんですよ。父さんヒモってやつか、なぁ真由子!?」
「知らないよ……」

 ついには私にまでからみはじめて面倒くさいなぁという思いが顔に出る。というか、恥ずかしい……。心配になって新谷に目を向けるけど変わらずにこやかな表情。だめだ、思考が読めない。

「だから一人娘なのに真由子には昔から我慢させてばかりで我がまま聞いてやれなくて……だから貧乏くさいでしょ? 真由子。こんな娘があなたみたいな立派な家の人と友人と呼べるだけでも恐れ多いのに恋人って……母さん、これは現実か?」
「もう、お父さんやめてって!」

 たまらず話に割って入るけど、まったくペースの崩れる様子のない新谷が静かに口を開いた。

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