相容れない二人の恋の行方は
「やっぱり、人前では恥ずかしいです……!」
「人前じゃなきゃいいってこと? なんだ、真由子は人目がつかないところでいちゃつきたいタイプか」
「そんなの当たり前じゃないですか!」
「……ふーん」
「……って、えっ!? ち、違……! た、ただ、人前でいちゃつくなんてこと考えられないっていう意味で……!」

 一気に全身の熱が上がって、特につながった右手に全意識が集中する。熱のこもった私の手をすっぽりと力強く包んで離さない大きな手。意識すればするほど今までに感じたことのない強い胸の高鳴りが全身を支配する。
 耐え切れなくなって、何か他に意識を逸らせるものはないかとキョロキョロとあたりを見渡す。

「……あっ」

 私の小さな呟きに気づいて新谷が足を止める。

「どうした?」

 同じく足を止めた私はちょうど今前を通りがかったショップのショーウインドウに展示されたパンプスに目が留まっていた。

「……靴?」
「あ、はい……。さっき木崎さんと買い物にいって服を試着したんですけど。そこでヒールの高い靴を履かせてもらったら、もっと履いた方がいいって言われて。仕事でもあんまり高いヒールは履いてなかったから……」
「でも歩きにくそうだ。真由子、普通にしててもよくコケてんのにあんなヒール履いたら……」
「こ、こけ……! なんで知ってるんですか!?」
「よく見てるからかな」
「……っ」

 それは最近の話? それとも……昔からの話? 一緒にいることが多いから仕方ないとは言え、見られているのだと思うと恥ずかしい……。
 相手が足を進めたのに合わせて私も足を進める。

「真由子はもう、今のままでいいよ。これ以上……その、綺麗になったら余計に目が離せなくなる」
「……はっ!?」
「ボクは昔のまっさらな真由子の方が好きだけどね。素朴で、清楚で……」
「お、おかしいですよ。まわりに……綺麗な人ばかり見て来ているから美的感覚がおかしくなっているんじゃ」
「そうなのかな。よく分からないや。恋とか、真由子以外にしたことないし」
「……っ!」

 どういうつもりなの!? 涼しげな顔をして次々と……! こっちは、そのさらっと発せられる言葉の数々に一瞬は落ち着いたかと思えた心臓がまた暴れ出しているというのに。

「そ、素朴って……。私はただ地味なだけで……。ナチュラルといえば、木崎さんとか。清楚でふわふわっとした雰囲気が可愛くて……」
「まなみはあぁ見えて気が強いし、天然で相手を振り回しているように見えるけど実は計算高い。小悪魔だ。ボクはどちらかというと相手を支配したいという思いが強いから従順で大人しい、やっぱり真由子のような……」
「……」

 ありがとう。胸の高鳴りは収まりました。
 というか、本当にこの男は私のことを一人の女性として見ているのかな!? やっぱり、召使い程度にしか思っていないんじゃ!?

「目的もなく出てきちゃったけどどうしようか。どこか行きたいとこある?」
「いえ、別に」

 男女で行って楽しめる場所なんて知らない。昔はよくゲームセンターとか私一人では絶対に行かない若者が集まる騒がしい場所へ連れて行かれたけど……さすがにもう新谷も大人。大人になった彼は私をどんなところへ連れて行くのだろう。想像がつかない。

「真由子船平気?」
「……はい? 船?」
「乗り物苦手だろ?」
「そうですけど……船なんてあまり乗ったことがないのでよく分かりません」
「よし、じゃあまずは試してみないとな」
「……え?」

 私はただ新谷に手を引かれるまま足を進める。船って一体……。期待と不安、正直ほぼ不安な気持ちのままタクシーを捕まえ乗り込んだ。


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