相容れない二人の恋の行方は
 「嫌です」。たとえ相手が社長であろうとはっきりと答えよう。昔みたいに何も言えなくて黙ってたら、また奴の思いのままに……!
 そう思って意を決して顔を上げた時だった。

「千智は子供の頃からあまり友達に馴染めず孤立して一人でいることが多かった」

 社長のその言葉に、心の中で「そうですか?」と反論。少なくとも私が知る高校時代の一年間は、いつも周りには取り巻きがいたし、歩けばみんなの視線を釘づけ。おまけに隣には毎日私と言う付録つき。孤立なんて言葉は無縁だった。

「そんな彼が、衣食住を共にしてもいいと言える心を許せる友人がいたなんてことに私は驚いたと同時にとても嬉しくて……」
「……はい?」

 今、聞き捨てならない台詞が社長の口から発せられたような気がしたけど……

「私も妻も千智が子供の頃からずっと忙しくあまりかまってやれなかったんだ。だからめったに言わない彼のわがままを出来れば聞き入れてやりたいんだ。これから忙しくなるだろう。二人三脚、気心の知れた相手が四六時中そばについて力になってくれるなら彼にとってこれほど心強いことはない。君には無理を言っていることは十分に承知している。そこをなんとか、これも仕事だと思って吉井さん、お願いできないかな」
「あ、あの!?」

 我慢ができなくなって声を張り上げる。
 返事を求める前にまず、説明してほしいことが。

「衣食住……四六時中って……?」
「あぁ。千智は高校卒業と同時に家を出たんだ。その時に何人かの使用人を連れて家を出たはずなんだが昨日偶然にも全員が突然辞めてしまったらしくてね。新たに雇うにも初対面の他人といきなり生活を共にするのは辛い。だから吉井さんに秘書兼……まぁ、芸能人でいうマネージャー的役割も兼ねて欲しいと」
「……」
「千智は頭脳は優秀だが、育った環境のせいか生活能力はゼロでお湯も沸かせない。一人ではとても生きていけないだろう」

 知らんがな!
 い、一緒に住めってこと? 住み込みで仕事だけでなく生活の面倒も見ろってこと!? こんなこと、前にもあったような……
 まさに青天の霹靂。何とか立っていた足がここにきて脱力してその場に落ちる。
 こんなことが現実に起こりうるの……?
 社長は慌てて立ち上がり、絶望の淵に追い詰められて放心する私に向かって見当違いの言葉をかける。

「住居費、食費、生活費はすべてこちらで負担しよう。お金は必用なだけ千智に言いなさい。あ、給与に特別手当もつけよう」

 そして「よろしくお願いします」と深々と頭を下げる社長を前に何も言えなくなる。
 なんだかもう、私に拒否権ないし……。

 地獄の同居生活……第二ラウンド……?
 あぁ、遠くで始まりのゴングが鳴る音が聞こえる。

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