相容れない二人の恋の行方は

03 堕天使スマイル

 放課後、多くの生徒が下校していく中、私は校内の案内をしてもらうという約束で新谷君と一緒に教室を出た。
 でも案内はもちろん一言も言葉を発することなく、一目散に連れてこられたのは人気のない校舎裏だった。
 ごくりと一度息を飲み込んでから、新谷君の背中に向かって問いかけた。

「あの……何か?」
「まさか。あの時不良に絡まれていた君が、ここへ編入して来ると噂の生徒だったなんてね」

 しゃべりながら振り向いた新谷君の表情は涼しげなもので、ただまっすぐにじっと私を見据える。綺麗なガラス玉のような瞳は、出会った時のような鋭さはまったくないけど、見つめられると全身を鷲掴みにされたような拘束力で逃げ場を失ったような感覚に陥る。じっと目を合わせても何を考えているのかはまったく読めない。

「この間は……助けていただいてありがとうございました」

 私の正体はすでにばれていると分かり、伝える機会がないと思っていたお礼を告げた。すると新谷君は目を伏せ足元の石段に視線を移すと、石段の上で自身を抱え込むような格好で腰を下ろしじっと私を見上げた。

「最近ここらで噂になっている不良グループの話は知ってる?」

 突然何を言い出すのかと思い戸惑ったけど、こくりと頷くことだけは出来た。

「最初はさ、十人ぐらいのやんちゃな不良の集団だったんだ。それがさ、気づけば数えきれないほどの人数の大きな組織になっていたんだよね」
「はぁ……」
「ボクは、気づいたらその組織のトップにいたってわけ」

 突然の、目的も理由も分からないカミングアウト。それなりに私に与えるダメージは大きく言葉を失ってガタガタと奥歯が震えた。
 そんな私とは対照的に新谷君はにこっと余裕のある笑みを見せた。大人びた印象の彼だけど、笑うとまだ幼さも垣間見えるごく普通の高校生……

「勘違いするなよ? ボクが作りたくて作ったわけじゃない。ただ歩いていたら突然絡まれて自己防衛のために相手のリーダーをボコボコにしてやったら勝手にどんどんと下に仲間が増えていっただけ」

 普通の高校生……ではない?

「でもいい退屈しのぎにはなった。ケンカなんてそれまでしたことがなかったから、力で弱い奴をねじ伏せる快感はクセになったし。特にバイク。夜道を早いスピードで走り抜ける爽快感、スリル。外の奴らと付き合ってはじめて知った楽しさだったよ」

 涼しい顔をしているけど生き生きした口調ですらすらと言葉を並べていく。わたしはただ呆然と立ち尽くしながら彼の話に耳を傾ける。

< 7 / 194 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop