相容れない二人の恋の行方は

19 それぞれの事情とトラウマ

 弘毅さんの登場から慌ただしくなると思われた日常も、特に変わりなくあれから数日が過ぎた。
 弘毅さんと新谷が会っている様子もなく、弘毅さんから私に連絡が入ることもなかった。新谷から弘毅さんの話が出ることもなく、私から聞くこともなく、本当に何事もなく過ぎ去る日々。その静けさにちょっとだけ不安を覚えたとある日のこと。

 新谷について広い学院内の施設を一つ一つ見て回っていた。設備投資も数多い理事の仕事の一つだけど、相変わらず新谷にやる気の色は見えず、細かな事務作業は全部私に丸投げで、今日もただブラブラと外を散歩しているだけのように思えた。

「そういえば真由子って、大学では何を専攻していたの? そういや何も知らないや」
「うっ……そ、それは。専攻は法律、政治学ですけど……」
「へぇ~。ということは法学部か。そっちの道には進まなかったんだ。司法試験とか」

 逃げるようにして外部受験をした過去を思い出して気まずい気持ちになったのは私だけで新谷に変化は見られなかった。

「……目指したことはありますけど。すぐに身の程を知って諦めました」

 高等部から大学を結ぶ木々に挟まれた木漏れ日の中をゆるやかな坂道を歩きながらの会話。今日も私は彼の半歩後ろをついて歩く。

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