相容れない二人の恋の行方は
 店に滞在していたのはほんの短い時間で、ラーメンを食べ終えるとすぐに店を出た。外はすっかりと陽が暮れていた。

「家、今千智んとこいるんだっけ? どこ? 送るよ」
「いいです。電車に乗らなくちゃいけないので……」
「そもそも、なんで一緒に住んでんの?」
「えっと……」

 新谷が元々自分の勤めていた社長の息子で、今は社長からの命令で祖父の経営する学院の理事職の引継ぎをやっている新谷の秘書を住み込みでやっているなんてこと……言えるわけがなかった。
 口ごもる私を見て弘毅さんは豪快に笑った。

「はははっ! いい、いい! 別に言いにくいことなら言わなくてもいいって!」
「す、すみません……」
「千智の奴もさぁ、なーんか色々隠してやがったんだよなぁ。ま、栄華に通ってる時点でどっかのお坊ちゃまかなぁとは思ってたけど。どうでもいいけどね!」
「はぁ……」
「もしほんとにどっかの御曹司とかだとしたら、当時結構ヤバイ奴らに目つけられていたし、頭のいいアイツのことだから、自分の素性を簡単に明かすようなことはしないって、それくらいのことは理解してた。実際、暴れるだけ暴れてヤバくなったらさっといなくなったしさ。あのあと、結構大変だったんだぜ? ま、でもアイツのおかげで結構楽しく……」

 弘毅さんは話の途中で突然言葉を止めると身を寄せて私の顔を覗き込んだ。

「千智の話はやめた。俺は、真由子のことがもっと知りたい」
「……はい?」

 弘毅さんのきりっとした眉や瞳、長身でがっちりとした男らしい体型は威圧感があって小心者の私は萎縮してしまうけど、人懐っこくどこか甘い笑顔には油断をしてふっと緊張感が解ける瞬間がある。
でも、

「おーい、真由子?」

 自分の方へと伸びてくる手に大げさに身を守るようにして反応をすると、逆に弘毅さんが「うわ、どうした!?」と驚きの声を上げた。

「ご、ごめんなさい! 今日はここで失礼します!」

 一方的にそう告げると駅へ向けて走り出した。
 でも私の持久力なんてたかが知れていてすぐに足は止まり膝に手をついて荒い呼吸だけを繰り返した。後ろを振り返り弘毅さんの姿がなくほっとする。

 どうやらまだ、学生時代に付き合った元彼の件が尾を引いているようだ。男性と接するのも触れられるのも怖い。

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